父とピアノ

定年退職した父が突然「ピアノ」を始めました。まさに「六十の手習い」です。といっても教室に通ったり、先生についたりしてレッスンを受けているわけではありません。まったくの独学、独習です。 嫁に行った娘に小学校の頃、ピアノを習わせていました。その時に買ったピアノがわが家にそのまま残っているのです。娘がいなくなってからは誰も弾く人のいないピアノに、退職してずっと家にいるようになった父が目をとめたのです。 私は娘が習っているときに、ときおりいたずらで弾いてみたことがありますが、父はそれまで鍵盤に指一本触れたことさえありませんでした。ですから、ある日突然ピアノの音がしたときにはびっくりしました。見れば父が、右手のひとさし指一本で、「ポン、ポン、ポン」と鍵盤を押しています。「たどたどしい」という以前のレベルです。思わず笑ってしまいました。 すると父は「ピアノ、教えてくれよ」といいます。私も経験はありませんが、娘のレッスンにつきあったこともありますから、基本的な手の置き方、指の動かし方くらいは知っています。そこで本当に基本のところだけは教えて、あとは娘が家に来た時に習うようにと言いました。 父はおどろくほど熱心でした。楽譜も娘のがたくさんありますので、私は「バイエル」から始めるように勧めました。 自己流ピアノレッスンを始めて、二年になります。まだ初心者の域は出ていませんけれど、なんとか「たどたどしい」くらいのレベルにはなっています。 人間いくつになっても、意欲さえあれば新しい趣味を見つけられるものだと、父に教えてもらったと思います。

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